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アレグロ・コン・フォーコ

情熱的で速いテキストサイト風ゆるゆるブログ

 

師匠と出会った秋の物語

真面目・その他

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まだ私が高校二年生だった2009年の11月頃、急に学校に行くのが嫌になった。苛められてたわけでも、体育のリレーに出たくなかったわけでもない。急に、としか表現ができないほど、突然嫌になった。


嫌だ嫌だと思い始めて二週間ほど経ち、ついに私は学校に行かなくなった。
学校には高熱でしばらく休むとメールを送った。どこもそうかもしれないが、うちの学校はメールで欠席の連絡ができたのだ。
担任からは「ゆっくり休みなさい」とだけ返事がきた。





家族にああだこうだ言われるのも面倒だったので、学校に行く振りだけすることにした。
7時50分に家を出て、まずは近所のサークルKで私服に着替える。エナメルバッグの容量は着替えと弁当を入れるのには十分すぎるほどだった。


そして昼頃まで近所の市営団地の非常階段の9階と10階の間の踊り場で読書をする。
ほとんど使われていない非常階段だったため、人と出会うことはほとんど無かった。


図書館で借りたギリシア神話を読んだ。



プロメテウスあなたが僕らに与えた炎は今姿を変えて争いを産み心に穴を開ける 変えたのは僕らだ
LAST ALLIANCE「プロメテウス」


好きなバンドの3rdアルバムMe and Your Borderlineに収録されている「プロメテウス」という歌の影響だった。

ギリシア神話は読んでも読んでもちっとも分からなかった。
訳が固かったのである。西洋文学者への道は早々に断たれることとなった。

他には星新一ショートショートを読んだ。
星新一の文章は今でも古くない。新しささえ感じる。流行りものや固有名詞を登場させないという本人の意図によるものだ。





団地の屋上に上がり弁当を食べた。
秋の気候は心地がいい。
ご飯を食べているときは幸せだった。
冷凍のソースカツが好きでよく食べていた。



午後からは古本屋で時間を潰した。
同じ場所に何時間も居座るのは難しいので、いくつかのお店を順に回った。
店を出るときは礼儀として105円の文庫本を買うようにした。私の本棚に統一性がなく、それどころか巻数もバラバラなのはそのためだ。安い本を買い集めた結果だ。

16時半頃またコンビニで服を着替え家に帰る。家族には怪しまれなかった。


退屈な日々だった。あの人と出会うまでは。



いつも通り非常階段で読書していたある日、後ろからチンピラっぽい男の声がした。

「お前なにしてんの?暇なん?」

派手なガラシャツを着たチンピラがそこに立っていた。
急なことだったので私はすぐに返事ができなかった。そりゃそうだ。
もう二週間は会話という会話をしていない。
しゃべり方を忘れていた。



「隣ええか?座るわ
俺はヨシカワ。よろしくな」
そう言うとヨシカワは私の左隣に腰をおろした。
香水の匂いがする。

「は、はい。どうぞ。」
やっと声が出た。


「はいやあるかい。こっちが名乗っとんねん。
お前はなんていうねん。」

「くぼたです」

「声小さいなあ。社会出たらナメられんぞそんなんじゃ」

「ははは…」

「なにがおもろいねんドアホ!!」


いろいろと会話をしていくうちに、ヨシカワの素性が明らかになってきた。
見た目と声はヤクザそのものだが彼は某有名国立大学の3回生だった。成績優秀で学費を免除されていて、学業のみならずアルバイトにも精を出し、逆に実家に仕送りをしている。

非常階段清掃の仕事中、読書する私の背中を見つけ興味を持ち話しかけてくれたそうだ。


話しているうちに私たちは意気投合し、すぐに良い関係になった。
私は彼のことを尊敬を込めて師匠と読んだ。


師匠は色々なことを教えてくれた。
ギリシア神話を噛み砕いて説明してくれたのには腹をかかえて笑った。

「要はゼウスっちゅうオッサンがヤりまくる話やで!」


他にも「喧嘩に負けない方法」として胡椒を相手の顔にふりかける技とか、古新聞を集めてボロ儲けしたこととか。刺激的だった。
二人で近所の進学塾に石を投げたりピンポンダッシュしたりもした。意味のないことがキラキラしていた。

ピンク・フロイドを教えてくれたのも師匠だった。ちっとも良さは分からないけど今でもたまに聴いている。



師匠との別れは突然だった。
一緒に食べようと思って二人の好物おさつスナックをしこたま買い込んで、いつもの踊り場に行くと手紙が一通置いてあった。

内容はこんなだった。

「俺はここを離れるわ。
今までありがとう。楽しかった。」

―楽しませてもらったのはこっちですよ

「実は大学で友達が出来んくて寂しかったんや。そりゃこんな見た目じゃ近寄ってくる奴もおらんわ。
かと言って自分を曲げて大人しい格好すんのも性に合わんしな。
お前だけは俺と向き合ってくれた。」

――

「高校には行った方がええで。
自分の可能性を自分で狭めるもんやない。
いっぱい勉強してええ大学入るんやで。
じゃあ元気でな。」

――はい、わかりました。


月並みな表現ではあるが心が空っぽになった。とぼとぼと家に帰った。
ぼんやりと居間の座椅子に座る。ニュースが流れている。近所で若者が自殺したらしい。

テレビに目をやると

師匠の顔写真が映っていた。


師匠は何故自害しなければならなかったのか。死人に口なし、知る由もない。

私は高校に通うことにした。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄




あ、全部嘘です。